第14話「生命の躍動感を建築に!」後編

こんどは、生命の話っすね。
建築とどう関係があるか、興味あるっす。

まずは、前回の太陽から始まる地球の循環のつづきですね。

▲光合成と呼吸の全体像(『エントロピーから読み解く生物学: めぐりめぐむ わきあがる生命』p.41)

この循環における生命のはたらきでは、ご存知のように、植物が光合成を行うことで、二酸化炭素からエネルギーのもととなる有機物(糖)を生み出します

そのための動力が太陽ですね。そして、動物は呼吸によって、糖を二酸化炭素に戻すと同時にエネルギーをとりだし利用する

これは太陽から受け取った力を形を変えて他の生物へと受け渡す、という循環です。

つまり、生命活動は太陽から受け取った力をリレーのようにつなげていく仕組み、と考えられる。ここまではいいですね。

セムー。

ここで質問なのですが、生物と無生物の違いってなんだと思いますか?

うーん、よく分かんないっすけど、生きてるかどうかってことっすかね?でも、それだとそのまんまっすね。

そのままですが、僕もそう思います。

これは、ものごとの「はたらき」に注目したある理論(*1)からなのですが、僕は生きてるということを「ぐるぐるとサイクルをまわしながらはたらき続け、そのはたらきによって自分と自分以外の境界を作り出すシステム」だと捉えています。

つまり、そういう自走し続けるシステムをもつものが生物ということですね。

自走っすか?

確かに生き物は勝手に走り続けてる感じがするっす。

そう、自走。

だけど、なぜ生物が自走し続けるのか?それがよく分からなかった。

生物とはそういうものだと思うしかなかったんだ。

それが、ある時その謎が解けた気がしたんだ。そのヒントがエントロピーにあったんだよ。

エントロピー。来ましたね。

さっきも言ったように、宇宙のあらゆる現象の源である、”混ざろうとする力”は、やがて混ざってしまえばその力を失う

これは、宇宙の摂理であって、混ざった後の力を失った死の状態というのはもっとも自然な状態だと言っていい。だけど、生物は自走し続ける。それは、なぜか。

ここまでの話から分かると思うけど、それは、太陽からの得た力を循環させる仕組みを生物もしくは生態系が持っているからなんだ。

また、それと同時に、その仕組みを生み出し、引き継ぎ、環境に適応して変化させる設計図、すなわち遺伝情報を扱うしくみも持っている。

この、自走する力と、その仕組みを維持する情報とを合わせ持ったものが生物と言える。

セムセム。

そして、その自走する力を持ち続けている、ということは、言い換えると、拡散し混ざろうとする力を持ち続けているということで、生物は絶えず、混ざる前の状態を維持していると言えるんだ。(*2)
(さらに遺伝情報や進化といったことまで。エントロピーで説明できるんだけど、ここでは置いておくね。(*3))

混ざった後の死の状態がもっとも自然な状態、とさっき言ったけど、こう考えると、生物ほど不自然なものはない

常に死へと至ろうとする宇宙の摂理の中で、それに抗い、混ざる前の状態を維持する不自然な存在

それこそが生物というもので、生きているということなんだ。

そして、それは太陽を発端とする循環の中で奇跡的に成立している。

生物が一番不自然だなんて、不思議っすね。

そう、不思議なんだ。

この、不自然さ・不思議さに、僕たちは生命に何か不思議な力、躍動感を感じているんじゃないかな。

ここで、少し考えてみてほしいんだけど、身近なところに生物に似た不自然なものがある。

それはなんだと思う?

うーん、なんっすっかね。
人間となんか関係あるっすか?

おおいに。

まー、これは僕の思い入れからの考えなので他にもいろいろあるかもしれないけれども、その一つが建築だと思うんだ。

ここでようやく建築っすね。

そう。

例えば、建築の快適性を考えた時、室内の温度を外の気温より夏は低く、冬は高くしようとするよね。

つまり、混ざる前の状態・不自然な状態を維持しようとする

そして、そのために技術を更新しながら、環境に適応しようとする。これって、どこか生物に似ていないだろうか。

そう言われると、そうかもっすね。

でも、ちょっとこじつけっぽくないすか。

・・・・・・

確かにこじつけかもしれない。でも僕は、ここにヒントがあると思っているんだ。

僕は、建築の環境をコントロールしようとすること、不自然な状態を維持することに、少なからず罪悪感のようなものを感じていたんだ。

だけど、生物は不自然な存在だと気づいた時、そして、その不自然さにこそ生物の魅力や存在意義があることに気づいた時に少し罪悪感が和らいだ気がしたんだ。

といっても、建築の環境をコントロールしようとすることがすべて正しいとは思わない。

ここでは「太陽を発端とする循環の中で奇跡的に成立している」生物のあり方を手本にする必要があると思うんだよ。

そして、それができた時に、建築にも生命の躍動感のようなものを与えられるんじゃないかとね。

それは、使命感や義務感から生まれた建築ではない、もっとあらゆる存在を肯定することのできる建築になると思うし、そこに住む人を肯定する建築になると思うんだ。

これが、セムーさんの疑問に対する答えになっているか分からないだけど、こんな風に生きていることとつながっているような建築を僕はつくってみたい。

そして、それをニキさんやセムーさんと一緒にやってみたいと思っているし、それが生きるってことにつながるんじゃないかな。

セ、セムー!
オラ、なんかやる気が湧いてき・・た・・・・・ダ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

???
セムーさん。
どうされました?。

セ・・ム・・・・・・

セ・・ム・・セ・ム・セムセムセム

セムセムセムセムムムセムムムムムムムムムセムーーーッ!!!

(ガッちゃんっ!)(*4)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

!!!!!!!!!!!!

セ、セムーが二人にっ!!!!!

・・・・・オラがもうひとり・・・・・・・・・
なんか興奮したら、分裂してしまったダ・・・

・・・・・・・・・・・・・・・

な、なんといっていいか・・・。凄いですね。

セムーさんがいれば100人リキだと思ってましたが、これじゃー200人リキじゃないですか。

おっ。これはラッキーっす!

セムーもやる気になってるみたいだし、バリバリ働いてもらえるっすね!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そ、そうですね・・・・・・・

がんばっていきましょう・・・

(ムシ人間の生態は分からないことばかりだな・・・・)

生命とは何か

特別に注意を払っていた問題ではないですが、これまで建築を考える際に、近づいたり離れたりしてきた問題です。

それが、環境について考えているうちにぶつかった、いくつもの矛盾を突破する鍵になるとは思いもしませんでした。

ここで書いたような建築に対するイメージは、まだ具体的な形に結びついたものではありませんが、これを書きながら徐々に輪郭が見えてきたように思います。

それをどう実現していくか。
インセクトは今、そのために船を漕ぎだしたところです

(インセクトのコンセプトを示すメインストーリーは第14話でひとまず完了です。ここからは、サブストーリーとして気ままにアップしていきます。)

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