第13話「生命の躍動感を建築に!」前編

オノンさん、こんちゃー。
すんません、セムーがなんか話があるみたいなんすよ。

セムー

こんにちは。
セムーさん、どうされました?

セムー。

オラ、自分のことを現場のムシだと思って、仕事を頑張ってたダ。

だけど、こないだのオノンさんの話を聞いてから、自分の中のムシのムシがさわぎ出した感じがして、なんかおかしいダ。

そうなんですね。
力になれるか分かりませんが、相談にのりますよ。

オラ、ムシ人間として生きることがどういうことか、もっと知りたくなったダ。

それが分かれば、もっと仕事を頑張れる気がしてるダ。

だから、こないだの話の続きを聞きたいダ。

なるほど。

なかなか難しい問題ですね。ムシ人間として生きることがどういうことか、というのは僕もよく分からないのですが、いま考えている「生命と建築」というテーマは少し関係があるかも知れません。

少し遠回りになるかも知れませんが、説明してみますね

セムー

このことを説明するには、循環についてもう少し詳しく説明する必要があります。

地球上のあらゆる活動は、太陽から届いた力をもとにした循環である、という話を前にしましたね。

これをより理解するためには、エントロピーという概念が役に立つのですが、聞いたことがありますか?

聞いたことはあるけど、よく分からないダ。

では、思いっきり単純化して説明してみますね。

宇宙の大原則にエントロピー増大の法則というのがあって、僕はこれを「混ざり合い、死に向かう法則」と呼んでいる。

例えば、ここに80℃の熱いお湯があるとしよう。

これを15℃の部屋の中に放っておくとどうなるだろうか。

もちろん、冷めてしまうダ。

そう。

お湯の熱は、周りの熱と混ざり合って、やがて冷めてしまう

混ざり合ってしまう前は、混ざろうとするような流れがあるけれども、混ざり合ってしまったものは、分子レベルの運動は別にして、もうそれ以上変わることはない

外から熱を与えない限り、水が勝手に熱くなるなんてことはないよね。

じゃあ、2つの袋に別々の気体が入ったものがあるとして、これらを合わせると、どうなるだろうか?

もちろん、混ざるダ。

そうですね。それらの気体は拡散して混じり合う。

これも、混ざり合ってしまう前は、混ざろうとするような流れがあるけれども、混ざり合ってしまったものは、もうそれ以上変わることはない

混じり合った気体が勝手に2つに分かれる、なんてことも起こらないよね。

セムセム。

こんな風に、宇宙のあらゆるものは、拡散し、混ざり合い、全く変化のないような、熱的死と呼ばれる死の世界に向かって動いているんだ。

セム。ちょっと怖い話ダナ。

だけど、混ざり合う前のものは、熱的死に向かって”混ざろうとする力”を持ってるっていうことでもある。

実は、これが僕たちが普段エネルギーと呼んでいるものの正体で、この宇宙のほとんどすべての力は、熱的死に向かって混ざろうとする力が源なんだ。(この力をエクセルギーと呼ぶんだけど、その話はまたそのうち。)

だけど、その力は混ざり合ってしまえば、失われてしまう。

だから、例えば地球という閉じた世界では、そのまま放っておくとあらゆる現象がその力を失い、やがて凍った死の世界になってしまうんだ。

割り込んですんません。

オレ分かったかもっす。もしかして、ここで太陽の登場っすか?

そうなんだ!

地球は放っておけば死に向かうけれども、太陽が日射を地球を届けることで、混ざり合う前の状態、つまり”混ざろうとする力”を絶えず生み出してくれているんだよ!

前にも言ったように、その力を形を変えながら循環させているのが地球というシステムなんだ。

だけど、太陽から受け取った熱をそのまま地球がため込んでいれば、地球自体の温度が上がって、日射の熱が混ざろうとする力はどんどん弱まっていくよね。

実は、地球の循環は、混ざってしまった状態、この場合は熱を宇宙に捨てることで成り立っているんだ。(*1)

この捨てることができなければ、いつかは止まってしまうのも宇宙の摂理なんだけれども、受け取とることと捨てることの絶妙なバランスのもと、地球の循環がなりたっているんだよ。まさに奇跡の星だと感じるよ。

そういえば、地球以外の星は死のイメージしかないっすね。

少しはイメージができた気がするっす。

それなら良かった。

ここで生命の出番だ。

次は、この循環の中に生命がどう関わっているのか、また、生命とはいったい何なのか、を考えてみよう。

ここではかなり単純化しましたが、エントロピーと言う概念はとても重要です。
ただ私も、熱力学が地球の循環とどう関わるか、最初はまったくイメージが湧きませんでした。

熱力学は物理という学問の中のお話だとしか思えず、ピンと来なかったのです。

だけど、これがあらゆる現象の源で、地球の循環を司るものだと分かった時、見える世界が大きく変わった気がします。

全体の調和を考えるための大きなヒントがそこにあったのです。

聞き慣れない言葉に最初は戸惑うかも知れませんが、一度理解してみると、当たり前で面白い世界がそこにあることに気づくかと思います。

そして、面白いと思えること。矛盾を可能性に変えるためには、これがとても大きな力になるんじゃないか、という気がしています。

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