第11話「子どもたちへ伝える物語」

ちょっと聞いてよー。 あの子ったら、またずっとゲームばっかりっ!

そ、そんなに目くじらたてなくても・・・。

僕も子どもの頃は・・・・・って、確かにちょっとやりすぎだな。

でしょう!
何か言ってやってちょうだいっ

わ、わかったよ。あとでちょっと声をかけてみるよ・・・・

とはいえ、子どもたちには狭い世界しか見せられてなかったからなー。

ゲームばかりにのめり込むのは僕たちにも責任があるかもしれない。
例えば・・・・・

また、長い話で丸め込もうと思ってるわね。
いいわ。いちおう聞いてあげる。

・・・・・・・・・・

例えば、これは僕の卒業論文のテーマでもあったんだけど、人間の人格は子どもの頃に、さまざまな人と交流し、その人から評価を受けることで形成されると言われている。多様なコミュニティの中で育つことが大切ということだね。(*1)

これは、人に限らず、さまざまな物語の中をいきることが大切だということでもある。

物語?

人間は国や地域、自然、家庭や学校などさまざまなレイヤーの物語の中を生きている。

だけど、今の子どもたちは、家庭と学校の行き来がほとんどで、ごく限られた物語しか経験できないことが多い。

それに、地域や自然とのつながりが希薄になっているし、今の社会は資本と科学という巨大な物語に覆い尽くされているからね。

そんな中で、いろいろな物語に揉まれてタフな人格を形成する機会が少なくなっているんだ。

あら、いつにもまして説教臭くなっているけど大丈夫?

たぶんね。

それで、僕は考えたんだ。

この都市の中の物語を生きているだけでは見えないものがたくさんある。

これは、もう一つ別の物語を生活の中に取り込まないといけないと。

それで、事務所を田舎に移転して、二拠点生活をはじめたってわけなんだよ。

やっぱりそっちにいくんじゃない・・・

もちろんそれは、子どもたちのためって言いたいんでしょ。

そう、子どもたちのために!

これからの時代を生き抜いていくには、いろいろな物語の中を渡り歩くようなしたたかさが必要になってくると思うんだよ。

いくつもの物語の中で一生懸命遊ぶ。

これはなかなか大変だけど、頑張ろうと思ってるんだ。

あーあ。

聞いて損したわ・・・・・・・・

私の卒業論文のタイトルは『コミュニティから見たコーポラティブハウスの考察』でした。
人格形成に必要なコミュニティを建築でどう実現するか、が主なテーマです。

このテーマは、環境について考えているうちに、人のコミュニティに限らない多様な物語を生きることが重要、というように拡がっていきました。

現代は資本や科学といった物語、あるいはこれまで書いてきた近代的な「分断と転嫁」の物語というような巨大な物語が大部分を締め、それ以外の物語の存在感が小さくなっている時代かと思います。

そんな巨大な物語から逃れることは難しいですが、いくつもの小さな物語を人生に取り込むことで相対的にその巨大さを和らげることはできるように思います。

そして、そのような物語を子どもたちに伝えることも大人の役割だと思うのです。

ちなみに、私も小さな頃はゲームもたくさんやったし、それが、ゲームをつくる方、プログラミングに興味が移ってのめり込みました。それが今の仕事にも大きく役立っているので、どんな物語がどう展開するかは分からないものです。(勝手なもので、それでも親としては心配になっちゃうのですが・・・・)

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