第19話『アニミズムって何?~土と風の話』前編

ところでオノンさん。

一番最初に聞いた、調和の思想って、いまいちイメージできてないんすよね。

分断の思想が問題だ、っていうのは分かるんすけど。

あの時はまだ、僕自信が明確なイメージを持てていなかったのでそうかも知れませんね。

あれから少し理解が進んだ気がするので説明してみます。

デカルト的な「分断と転嫁の思想」の前は「調和の思想」が主流だった、という話をしたと思いますが、これは、アニミズム(*1)の思想をイメージしていたものなんだ。

アニミズムっすか?
ちょっと怪しげな感じがするっすね。

アニミズムは精霊信仰と訳されたりしますが、確かにスピリチャルな感じがするし、未開社会の劣った考え方、というイメージが強いかもしれない。

だけど、この考え方には「分断と転嫁の思想」を乗り越えるためのヒントがあると思うんだ。

そこで、アニミズムの怪しげなイメージを取り払うことに挑戦してみようと思う。

うーん、例のごとくイメージが沸かないっすけど、了解っす。

またまた遠回りで申し訳ないんだけど、そのために、ティム・インゴルド(*2)という人類学者の提唱する、ラインとメッシュワークを参考にして、生命のイメージを置き換えるところから始めてみたい。

以前、生命のシステムを「ぐるぐるとサイクルをまわしながらはたらき続け、そのはたらきによって自分と自分以外の境界を作り出すシステム」と書いたことがあるけれども、そのイメージをAとしよう。

自走するシステムによって中と外の境界が生まれているイメージだね。

だけど、自分の体の中にもいろいろな生物が棲んでいるし、さまざまな異物が体の中を通り過ぎてもいる。

なので、Aの内と外という、イメージを弱めるために、ぐるぐる回るはたらきの周りに、いろんな要素が絡み合って、一時的にまとまりが生まれているものをイメージしてみた。(B)

Bのイメージもなかなか良いと思うんだけど、ここでインゴルドは生命を円環ではなく線として考えるんだ。

Bの円環をほどいて線状にしたものがC。
はたらきの周りに、いろんな要素が絡み合って、一時的にまとまりが生まれているイメージがより鮮明になった。

円が線になることに、どういう意味があるんすか?
っていうか、Cは何か寂しげな感じがするっすね。

寂しげに見えるのは単体で見てるからだね。

円と線との違いは何か。

ここに、「分断と転嫁の思想」を乗り越えるためのヒントがある。

円は、一つの閉じた塊に見える。後で説明するけど、これは、世界を分断する考え方に都合の良い捉え方だ。これは生命を”対象(*3)”として捉えることでもある。

一方、線は、開いていて、塊としてよりもはたらきそのものとしてのあり方を表している

つまり、円と線は、世界を構造(世界がどう構成されているか)として捉えるか、それともシステム(世界はどのようなはたらきでできているか)として捉えるか、という世界観の違いによって、同じ生命の見え方が変わっていると言える。

構造とシステムっすか?
うーん、よく分かんないっす。

とりあえず、円は塊、線ははたらき、とだけ頭に入れておいてください。

ここで、インゴルドは、世界のイメージをネットワークからメッシュワークへと置き換えようとする。

さっき、Cの生命は寂しげに見える、と言ったけれども、線の生命は、円の中に閉じこもらずに、世界の中に泳ぎだすことで、たくさんの他の線と絡み合う

微生物から人間まで、多様な生物の活動が絡み合った世界をメッシュワークと呼ぶんだけれども、これは、寂しいどころか、躍動感に満ちた豊かな世界のイメージだ。(D)

一方、世界を小さな円に分断する世界観では、世界に配置された塊が関係性を持つというネットワークのイメージで考えられることが多い。(E)

このネットワークの世界観は、メッシュワークの世界観に比べて、躍動感が失われたものに見えないだろうか。
ネットワークでも各要素間の関係性は絶えず動いているはずなんだけど、生命が一つの点になってしまったことで、どうしても止まった印象を受けてしまう。

こんなふうに、生命を閉じた円として捉えるか、開いた線として捉えるかの違いが、世界をネットワークとして捉えるか、メッシュワークとして捉えるか、という違いにつながっているんだ。

静と動って感じっすね。
何となく、線のほうが躍動感がある気はするっすけど、それとアニミズムって関係あるんすか?

もちろん。

この2つが、デカルト的「分断と転嫁の思想」とアニミズム的「調和の思想」との違いに関わっているんだけど、それについては次回説明するね。

第2~3話は、『資本主義の次に来る世界』で描かれている、デカルト的二元論とアニミズムの対比を参考にしたのですが、このアニミズムという概念は、そのまま使うには、スピリチャルなイメージが強すぎるように感じていました。

アニミズムは文化人類学の分野でも盛んに議論されているようですし、何とか自分の言葉に置き換えられないか、と考えていた時に出会ったのが、ティム・インゴルドの『生きていること』だったのです。

この本を読んで考えたことを、前編・中編・後編の三話に分けて書いてみたいと思います。

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