第5話「自然と調和する建築?」後編

続きをお願いします。

ここからは、簡単な例を交えて話そう。

例えば、断熱された空間を冷房することを考えてみよう。

ここで、発電所でつくられた電力を何かの目的に使う場合、燃料がもともと持っていた能力のうち、1/20程度しか実際には利用できない、と言われている。

1利用するために、20の資源が必要で、19は捨てられるんだ。

その、20の資源の多くは、現在の地球のサイクルから外れた、持続可能性のない資源だ。
そして、19の捨てられるものは地球の循環の負担になる。(*1)
つまり、これは持続可能な循環とはなじまないシステムだ。
この図にも「分断と転嫁の思想」が潜んでいることが分かるかな?

分かる気がするわ。
というより、図に書いてるじゃない。

そうだった。

自分に関係のある内と外(ここでは室内と室外)を切り分けて、内側のみ力づくで制御する。

そして、外のことは自分とは無関係な世界として意識の外に置かれる

これはまさしく「分断と転嫁の思想」だ。

断熱を強化して、利用するエネルギーを減らそうと努力することはもちろん大事だし、あまりにも気候が厳しい日には、ある程度制御しなければ命に関わることも分かるので否定しない。

だけど、ここに「分断と転嫁の思想」が潜んでいることを忘れて、それについて考える努力をやめてしまえば、環境問題は決して解決には向かわない、と僕は思うんだ。

そして、思想は建築に現れるので、分断の思想のみでつくられた建築には、僕はあまりワクワクしなくなった。

技術ももちろん大切だけど、その前に思想について見直す必要があると思うんだよ。

なるほど。じゃー、分断の思想じゃない建築ってどんなんっすか?

前回、建築を自然の中の調和・循環の中に位置づけたい、と言ったけど、まずは内と外を切り分けることをやめて、全体で考えてみることから始まると思っている。

その上で、身近にある、太陽熱・光・風・動植物などから利用できるエネルギーを活用する。(*2)

前に行ったように、それらはすべて太陽からはじまる循環の中にあるものなんだけど、それを循環を壊さないように利用させてもらう。

これらのエネルギーは決して大きなものではないけれども、うまく組み合わせれば、快適な環境をつくることができるはずなんだ。

また、これらを活用するためにこそ断熱やその他の技術が重要になってくる

こうした工夫は、もともと建築に備わっていたものなんだけど、力づくの技術に頼りすぎたせいで、忘れられてしまったものでもある。(*3)

なるほど、なるほど。

つまり、技術はいらない、ってことじゃなくて、オノンさんの考える建築にこそ技術が必要ってことっすね。

そうなんだ。
だからこそ、ニキさんたちの助けが欲しいと思っているんだ。

力を合わせれば、きっとワクワクする建築がつくれると思うし、そういうものがつくれれば、難しい話をしなくても、きっと肌で感じられると思うんだ。

了解っす。

まだまだ、分からないこともあるけど、それはおいおい勉強するとして、技術に関しては任せてください!

ありがとう!

僕も、まだまだ伝えたいことがあるけど、今日は話が長くなったので、また別の機会にしよう。

今、事務所でもいろいろ実験しているので、今度説明するよ。

環境に優しいとされる省エネな建物。私はこれに対しても、どう向き合えばいいか決めかねていました

省エネ化するには、断熱性能を高くして窓を小さくし、太陽光パネルや高効率の設備機器を設ければ良い。簡単な話でコストをかければ誰にでも実現できます

だけど、ここにも何か忘れられているのではないか、という違和感を感じずにはいられませんでした。

それに対してぐるぐると考えを巡らせた結果、これまで書いたことも含めて、いくつかのことが見えてきました。

それは、

(1) これらの断熱性能を高めるような技術は、やはり重要な技術に違いないこと。

(2) それでも、この技術は「分断と転嫁の思想」の上に成立しているもので、これによって、より室内と室外、自分とそれ以外という分断を深めてしまうこと。

(3) それらの矛盾の中で、どちらも諦めないような道を探る必要があること。

(4) そのヒントが地球の循環と、これまでに蓄積されてきた知恵の中にあること。

の4つです。

(1)と(2)の間の矛盾が、自分の中のわだかまりとして消えず、しばらく悶々とした日々を過ごしました。

しかし、現代の「人新世」と呼ばれる時代を生きることはこういった矛盾の中を生きることなのだ。それを受け入れつつ考え続けることが重要なのだ、と気づいたとき、おぼろげながら(3)と(4)の道が見えてきました。

この矛盾の中を進むことは、設計者の立場としては困難を伴うイバラの道です。
しかし、実現される建物は、きっと生きることを肯定する躍動感のあるものになるはずです。

これは腹を括るしかありません。

矛盾を可能性と楽しさに変える。これこそが建築と設計者に与えられた特権に違いないのですから。

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