こんちゃー。オフィスでやってる実験について説明してくれるってことでやってきましたー。
よく来ていただきました。
ここでは、建築に関する実験をはじめ、畑や田んぼなど、いろいろな経験ができるようにしてるんだ。
折り紙もすごいっすね。
折り紙や工作は子どもの頃からの趣味だけど、今の仕事につながっているかも。
折り紙は数学的にもいろいろ面白いことがあるんだけど、それはおいといて、今日は、建築に関する実験を少しだけお見せしますね。
よろしくっす。
この事務所は、もともと民家の馬屋だったところをほとんど自分で改装して事務所にしたんだ。
ニキさんにも少し手伝ってもらいましたね。
事務所の空間は、環境シミュレーションで検討を行い、6畳用のエアコン1台で十分空調ができるように断熱性能を決定してるんだ。
実際にはエアコンを使うことはほとんどないけれどもね。
環境シミュレーションっすか?
そう。
いつも設計に使っているソフトには対応していなかったんだけど、無料で使える有名な環境シミュレーション用のプラグイン(*1)があってね。
これを自分の使っているソフトでも使えるようにプログラムを組んで使えるようにしたんだよ。
へー、そんなこともできるんすね。
これも、子どものころに趣味でやってたプログラミングが役に立ったよ。
不思議なもので、子どものころに本気で遊んだことはいろんな部分で今に役立ってる。
これを使って、設計中の建物や周囲のデータを3Dモデルで組み立てると、年間を通して、日射をどう受けるか、室温や部屋の明るさ、空調負荷やそれによる電気代、風の流れなんかがシミュレーションできる。
実際にシミュレーションした結果はこんな感じだね。
なるほど。
コンピューター技術の進歩っすね。
昔はとても僕らじゃ手が出ないくらいお金がかかっていたけど、今は理解さえすれば無料だからね。凄い時代になったものだ。
他には、例えば昨年の夏には、気象データの活用と気化熱の実験がしたくて、マイコン制御に挑戦してみたよ。
次はマイコン制御っすか?!
そうなんだ。数千円で売っている小型のマイコン(*2)にセンサーを接続してプログラムを組めば、温度や湿度、気圧や照度(明るさ)など、いろいろな気象データを記録することができる。
そうやって、実験結果をデータとして検証できるようにしてみたんだ。
また、このマイコンで、例えばモーターや電磁弁などを制御することで、気温や日照に応じて、建物の一部をコントロールすることも可能だ。
とりあえず、気温と日照に応じて、井戸水を屋根と簾に散水し、室温がどのように変化するか試してみた。
すべて機械で制御するのがいいとは思わないけど、こういうことができると、いろいろな可能性が生まれると思う。
結果的には、一定の断熱性能があると、屋根散水はほとんど効果がないことが分かったけれども、断熱性能の低い古い建物にはそれなりの効果があるはず。
この時、屋根散水をして、データをとってみても期待してたような効果がなかったため、いろいろ調べたり検証してみたんだ。(*3) どういう理論で説明できるかを理解するまで苦労したけど、とても勉強になったよ。
この、銀色のやつはなんすか?
それは「にっしゃはんしゃくん2号」。
可動式の反射板で、冬は窓面積以上の日射を取り入れて部屋を温める、夏は日射を反射して、室内に熱を入れない、という単純な仕組みだ。
単純だけど、これだけで冬の室温は3度前後上昇したよ。
これも、身近にある小さなエネルギーを活用する例だね。
いろいろ試してみてるんすね。
実際に試してみることで見えてくることがいろいろあるからね。
こういうことをやってみたいというのも、事務所を移転した理由の一つなんだ。
頭の中だけで設計をしていることに、だんだん不安を感じるようになっていたしね。
他にも、太陽光発電や、雨水利用、土や植物に関することなど、試してみたいことは山ほどあるから、また新しいことを試したら見に来てください。
楽しみにしてます!
事務所を移転してみて分かったことの一つに、都市部と地方とではできることが大きく異なる、ということがあります。
まず、地方には膨大なスペースがあります。また、木や草などの植物、太陽光や風、土や水など、資源と考えられるものが豊富にある。そして時間がゆっくり流れている(ように感じる)。
それまでは、ほとんどパソコン上で仕事をしていて、外に出るのは現場に行くときだけ、ということが多かったのですが、ものづくりに携わるものとしては、このことに少なからず不安を抱いていました。このままでは、体験の抜け落ちた設計になってしまうのではと。
事務所を移転してからは、ここで挙げたようなことも含めて、思い立ったらいろいろな事を試せるようになりましたし、それまで場所がなくて頻繁にはできなかったちょっとした木工なども気軽にできるようになりました。
パソコン上のシミュレーションなどバーチャルな検討の密度も上がりましたが、それと現実とをつなげるさまざまなルートを手に入れたことが大きな収穫ですし、それによって設計の内容自体も変化すると思っています。