だんだん春になって快適になってきたっすね!
ええ。だいぶすごしやすくなってきましたね。
ところで、快適性って何によって決まるとと思いますか?
そうっすね。
温度と、あと湿度っすかね。
快適性もしくは体感温度は、温度と湿度の他にも、壁や天井の温度、風速、人間の活動量、着ている服の量によって決まるとされているわね。(*1)
これらの要素を使った、さまざまな快適性を表す指標があるわ。(*2)
そうですね。
私たちの身体は環境とさまざまな熱のやりとりをしている。
まず、人間は絶えず、活動量に応じて熱を発している。(代謝)
汗をかけばそれが蒸発する際に熱を奪われる。(蒸散)
また、周りの物体の放射熱も受けとるし、人体も放射している。(放射)
そして、身体に接している空気とも熱のやり取りが生まれている。(対流)
人間は恒温動物なので、身体に熱を貯めずに体温を一定に保つ必要がある。そのためには、これらの熱の出入りがバランスしていないといけない。
そのために人間は代謝量を増やして加熱したり、汗をかいて冷却したりして調整しているんだ。服を来たり脱いだりも調整の一つだね。
熱の出入りがバランスしていて、この調整が無理なくできる状態が快適な環境と言えるし、熱のバランスが崩れて身体に大きな負荷がかかると不快な環境と言える。
その熱収支をまとめたのがこの図です。
そうね。
これらの熱の出入りは、上の図で言えば、オレンジ色のいろいろな要素によって決まってくるから、気温ばかりを気にしていてはいけないと思うわ。
だけど、計画時にはほとんど気温だけが問題にされている、というのが現状ね。
エアコンで気温を制御するだけで済ませてしまっているからね。
でも、本当に快適な環境を考えると、さまざまな要素を勘案しないといけないよね。
例えば、下の図は、冬季における、人体のエクセルギー消費、すなわち身体にどの程度負荷がかかるか、と室温および周壁平均温(壁や天井の温度)の関係を示した図だ。
室温+周壁温の値が同じケースで比較した場合、(A)室温23℃、周壁温20℃(計43℃)と、(B)室温18℃、周壁温25℃(計43℃)とでは、(B)の方がエクセルギー消費量、すなわち身体への負荷が小さい。( (A)2.75W/㎡,、(B)2.5W/㎡ )
つまり、気温だけだと室温23℃の(A)のほうが暖かくて快適と判断しそうだけど、実際は逆で、この場合は気温より、周りの物体の温度の影響が大きかったと言えるね。
夏も同様に周壁温が低いほうが快適に感じたりする。
この図は初めて見たわ。冬に部屋の空気ばかり温めていても、断熱性能が低くて壁が冷たいままだと、不快な状況が続くってことね。
そう。夏における風の影響も案外大きいし、熱伝導、熱対流、熱放射といった、いろいろな熱の移動を考えることが重要なんだ。
昔は、エアコンなんてものはなかったから、これらを肌で感じてさまざまな工夫をしていた。今こそ、そういうものに敬意を払うべきだとも思う。
それに、個人差や心理的な影響も大きい。例えば、駅やアトリウムなどは、あまり空調されていなくても不満に感じることが少ない、という研究もある。(*3)
屋外や自然に近いという感覚を持つと、多少不快でも気にしなくなるのかもしれないね。
他にも、冷たい床に素足が触れたり、風鈴の音を聞いて涼しく感じる、など、快適に感じるきっかけはいろいろなものがあるよね。
へー、面白いっすね。
空調で温度調整するだけじゃあ、何か物足りない、と感じてたんすよ。
それに、ずっと同じ温度というのも、子どもの頃の環境を思い出すと何か妙な感じがするっす。
これは、まだ確信できる根拠を持ててないんだけれども、一日の温度変化や季節の変化がない状況で育つと、環境への適応力が衰えるという議論は昔からありますね。(*4)
適応力を持つ生物にとって、変化のない環境が必ずしも良いとは限らない気もします。適度なストレスは、人間の健康と幸福に不可欠だ、というようなことも研究されているようですね。
また、「快適」には「快」と「適」の2つがあるという意見もある。「適」は温熱環境が一定の時の心地よさ、「快」は温熱環境の変化・ギャップによる心地よさで、いわば静と動だ。
「適」は環境分野の専門化が好み、「快」はデザイン系の人が好む、と言われたりするけど、健康と幸福のためにはたぶんどちらも必要なんだと思うよ。
その辺は人によってだいぶ違うかもっすね。
快適さとは何か、というのはなかなか奥が深い問題だけど、今の僕の結論は、温度だけではなく、さまざまなものに目を向ける。そして、ささやかでもいいので、心地よさのもとになるものを、いくつも積み上げていくことが重要なんじゃないか、と思っているよ。
そうやって出来た快適さは、深みのある豊かな空間へとつながると思うんだ。
そうね。わたしも、もっと快適な空間がつくれるように頑張るわ。
快適性とは何か。
工学的に数値で表せそうであって、数値だけで捉えるのは難しい。単純な問題に見えて、なかなか奥深い問題です。
ここでも昔の知恵は参考になりますし、分かった気になってしまうと逆に快適性から遠ざかる可能性もあります。
だかこそ、設計において考えがいのある面白いテーマだと思います。