第3話「環境問題って何?」後編

前回の続きっすね。近代的な思考に無理がきてるってどういうことっすか?

そんなに難しい話でもないですよ。

今の人類、ホモ・サピエンスは25~40万年前に現れたと言われている。その長い人類の歴史の中で、ほとんどのあいだ、人は自分たちは自然の中の一員にすぎないと考えていたんだ。

自然の調和の中で生きることが生存につながるので、そのための知恵をたくわえていたんだね。

なんとなく分かるっす。

それが、文明がだんだんと進んでいった17世紀。デカルトという哲学者が、すごく簡単に言うと「人間と自然はべつもの。」(*1)ということにしたんだ。

そのほうが、自然について考えるのに都合がよかったんだけど、デカルトが本当にこう考えていたのかは分からない。教会による弾圧があったからね。
さらにデカルトは、「自然は細かく要素に分割して分析しよう。その部分を組み上げれば全体が分かるはず。」(*2)と考えた。

この、全体を部分に分ける思考が近代科学のもとになり、それが、現代へと続く発展を支えたんだ。

デカルト、めちゃ偉人じゃないっすか。

そう。現代の豊かさはデカルトのおかげとも言える。

ところが反面、全体の調和を考える知恵は失われてしまった。人間はみんな、目に見える部分だけを見る盲目的な視点が当たり前になってしまったんだ。

うーん、何が問題なんだろう。

「何が問題か分からない」 じつは、そこが一番の問題なんだ。

だって、部分ばかり見ていては、全体は見えなくなってしまうし、目の前のことがうまくいっていれば、すべてうまくいっていると錯覚してしまうからね。つまり、人間と自然、もしくは自分とそれ以外の世界を分けてしまうことで、「今」「ここ」「私」に対する視座しか持てなくなってしまったことが、環境問題の本質なんだ。(*3)

前回の「分断と転嫁の思想」のうち、「分断の思想」が私たちを盲目的にしてるってことね。

それじゃあ「転嫁の思想」ってどういうことかしら?

「転嫁」というのは責任転嫁の転嫁だね。環境問題は「技術的転嫁」「空間的転嫁」「時間的転嫁」といった責任転嫁によって、問題を見えないところに押しやって、存在しないことにしてしまうことが大きな問題なんだ。

具体的にはどういうことっすか?

「技術的転嫁」は新しい技術を生み出して、何かを乗り越えたと思っても、実はほとんどの場合、新しい技術によって別の問題が生まれていて、単にそれが見えづらくなっているだけ、ということ。

例えば、新しいエコロジカルな技術にはレアメタルが必要だけど、それを手に入れるのに、膨大なエネルギーが必要だったり、それ自体が環境を破壊していたり、貧しい人々の生活と人権を奪うことにつながっていたりする。(*4) 僕らの知らない遠いところでね。

「空間的転嫁」はこの場所の豊かさは、他の場所に住む人の貧しさや、他の場所の自然を破壊することによって成立しているということ。さっきのレアメタルの話もそうだね。どこかの何かを犠牲にしながら手にいれていたとしても、ほとんどの場合、遠くの話なのでそのことに気づかない。

そして、「時間的転嫁」は、現代の豊かさは、これからの人々の未来を奪うことによって成立しているということ。今の自分たちが良ければ、未来の人々がどうなるかは知らない。というか、目に見えない未来のことが意識にのぼることはほとんどない。

分かったわ。
つまり、分断の思想によって、盲目的になってしまっているから、責任を転嫁していることにも気づかない、ってことが言いたいのね。

当然、気づかない問題が解決されることもないわね。

そう!
当然、これだけ情報が流通しているので、問題そのものを知ることはあるけれども、分断の思考があまりにも染み付いてしまっているため、「どこか別のところにある問題」としか感じられなくなっている。
それは、ほとんど問題がなかったことになるのと変わらないし、そこが一番おそろしいことなんだ。

一番言いたかったのは、近代的な思想の根本的な問題に気づくことなしには、環境問題を解決することは難しいということで、それこそが環境問題の本質だと思う。つまり、デカルト的な分断の思想と、それ以前の調和の思想、どちらも必要ということ。そして、その先に、断熱性能やその他の技術的な話があると思うんだ。

セムー・・・・

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セムーさんも物足りなさそうだし、次は、建築について考えてみましょう!

近代的思想の枠組みが、さまざまな問題をなかったことにしてしまう、という構造。

私は、これを自覚するのが環境問題を考えるための第一歩だと思っています。

とは言え、そこから抜け出せないのも人間。

それを、単なる使命感や義務感ではなく、当たり前の楽しいことに置き換えられないか、というのが今のテーマであり、建築に可能性を感じている部分でもあります。

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